AI活用術2026-07-21監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

リサーチャー業務のAI活用 — 母集団形成とロングリスト作成の目安

この記事の要点

「このロングリスト、本当にAIで作ったんですか?母集団が薄くないですか」——数年前、一緒に動いていたRAの後輩からそう聞かれたことがあります。当時の僕は検索軸をAIに広げてもらって満足していて、母集団の質までは見ていませんでした。後日そのポジションは応募が伸びず、結局ゼロから軸を組み直す羽目になりました。

結論から言うと、僕はリサーチャー業務のうち母集団形成の「検索軸を広げる」部分と、ロングリストの一次スクリーニングの「読む量を減らす」部分はAIにかなり任せられると考えています。一方で、母集団が薄いか濃いかの最終判断、除外条件の匙加減、候補者の経歴の行間を読む作業は、今のところ人が担うべき領域だと感じています。この記事では、僕が独自ガイドとして使っている目安値をもとに、どこまでAIに任せて、どこから人が引き継ぐべきかを整理します。

0. リサーチャー業務を「工程」で分けて考える

リサーチャー業務は一枚岩ではなく、実際には複数の工程に分かれています。僕の整理では、大きく(1)検索軸の設計、(2)母集団形成、(3)ロングリスト作成、(4)ショートリストへの絞り込み、(5)アプローチ順の決定、という5工程です。AI活用の議論をするとき、この工程を分けずに「リサーチャーの仕事にAIを使う」とひとまとめに語ると、任せられる範囲を過大評価したり過小評価したりしてしまいます。

例えば検索軸の設計は言葉の言い換えやキーワードのバリエーション出しが中心なので、AIが得意な領域です。一方でショートリストへの絞り込みは、候補者の転職意欲の温度感や、書類には出てこない社風フィットの見立てが必要になるため、人の経験がまだ強く効く領域だと感じています。この工程分解をせずに議論すると「AIでリサーチャーが不要になる」という極端な結論に飛びやすいので、まずは工程を分ける視点を持つことをおすすめします。実際、僕の周りでも「AIに全部やらせてみたが結局手戻りが増えた」という声を聞くのは、この工程分解を省いてしまったケースが多いように思います。

1. 母集団形成でAIに任せられること・任せられないこと

母集団形成の入口、つまり検索軸を広げる作業は、AIとの相性がかなり良いと感じています。僕の体感では、人力だけで思いつく検索軸は3〜4軸程度が多く、業界特有の呼称違いや、部署名の言い換え、英語表記のバリエーションまでは手が回りにくいものです。AIに職種・スキル・業界の情報を渡して検索軸のバリエーションを出してもらうと、独自ガイドの目安として8〜10軸程度まで増えることがあります。これは「思いつく軸の数」という定義での比較で、実際のヒット数の増減は職種や母集団の分母によって変わります。

ただし、増えた軸のすべてが有効なわけではありません。AIが出す軸の中には、実務では的外れなものも一定数含まれます。僕の感覚では、出てきた軸のうち実際に使えるのは6〜7割程度で、残りは職種理解の浅さから来るノイズです。ここを取り除く作業、つまり「この軸は今回のポジションには合わない」という判断は、業界の勘所を持った人が担うべきだと考えています。AIは軸の「量」を増やすのは得意ですが、軸の「質」を見極めるのはまだ人の役割です。

例えばSaaS企業の法人営業職のようなポジションでは、AIは「インサイドセールス」「フィールドセールス」「アカウントエグゼクティブ」といった呼称の言い換えを素早く並べてくれますが、その企業がどの規模帯・どのフェーズの企業からの転職者を歓迎しているかまでは踏み込めません。ここは求人票の行間や過去の採用傾向を知っている人が補う部分だと感じています。

2. ロングリストからショートリストへ — 一次スクリーニングの目安時間とケース比較

ロングリストができた後、候補者一人ひとりの経歴を読んでショートリストに絞り込む工程があります。ここでAIに経歴要約やキーワードマッチ度の一次採点を任せると、1名あたりの確認時間が独自ガイドの目安で15分程度から5分程度まで短縮する体感があります。この数字は「経歴の要点を把握してマッチ度の第一印象を持つまでの時間」という定義での比較で、最終的な合否判断や面談設定までの時間は別です。

ここで注意したいのは、AIの要約を鵜呑みにしてしまうリスクです。経歴書の要約は、実務では「何をしたか」よりも「なぜそれをしたか」「その次に何を選んだか」という行間の方が重要になる場面が多くあります。AIの要約はこの行間を落としがちで、特に転職回数が多いキャリアや、職種転換を伴うキャリアでは誤読が起きやすいと感じています。

ケースで比較すると、募集要件が明確で候補者数も多い定型的なポジション(例えば一般的な経理職や法人営業職)では、AIの一次採点の精度は比較的高く、僕の体感でも上位判定と実際の書類通過率がある程度一致することが多いです。一方で、専門性が高くニッチな職種(特定技術領域の研究職や、複数分野を横断する管理職など)では、AIの一次採点が上位に出さなかった候補者の中に、実は面談してみると温度感が高く、経歴の行間にこそ強みがある人が混ざっていることがあります。このケースでは、AIの採点を「絶対の順位」ではなく「読む順番の参考値」として扱う姿勢がより重要になると考えています。以下は僕が現場で使っている、工程別の目安時間の比較表です。

工程AI活用前の目安時間(1名あたり)AI併用時の目安時間(1名あたり)
検索軸の洗い出し思いつく軸3〜4個思いつく軸8〜10個(うち有効6〜7割)
経歴の一次確認15分程度5分程度
ニッチ職の一次確認(体感)20分程度8分程度(要人の再読)
ショートリスト化の最終判断変化なし(人が担う)変化なし(人が担う)

3. AIに渡すブリーフの設計 — 除外条件を先に言語化する

母集団の薄さ・濃さのトラブルは、多くの場合AIに渡すブリーフの設計不足から起きています。僕の経験では、対象ポジションの必須要件だけを渡して検索軸を広げてもらうと、範囲が広すぎて的外れな母集団になることが多いです。逆に除外条件を細かく渡しすぎると、母集団が薄くなりすぎて、そもそもロングリストが組めないという事態にもなります。

ブリーフの型としては、(1)必須要件、(2)歓迎要件、(3)明確な除外条件(業界・年齢帯・経験年数の下限など)、(4)検索キーワードの候補軸、という4項目を先に文章化してからAIに渡すのが基本だと考えています。これはスカウト文のプロンプト設計とは別の話で、リサーチャー特有の「検索範囲の輪郭」を決める作業です。除外条件を先に決めておくことで、AIが出してくる検索軸のノイズが減り、後工程の一次スクリーニングの精度も上がる体感があります。

実際の項目例を挙げると、必須要件は「〇〇分野での実務経験3年以上」、歓迎要件は「マネジメント経験があれば尚可」、除外条件は「同業界の競合出身者は今回は対象外」「新卒3年未満は対象外」、検索キーワードの候補軸は「職種の英語表記・略称・関連する部署名」といった粒度で書き出します。この4項目を毎回テンプレートのメモとして持っておくと、ポジションが変わっても運用がぶれにくくなります。

比喩で言うと、これは網の目の粗さを決める作業に似ています。網の目を細かくしすぎると魚(候補者)がほとんど入らず、粗すぎると余計なものまで入って仕分けに時間がかかります。ブリーフの除外条件は、この網の目の粗さを事前に調整する役割を持っていると考えると分かりやすいと思います。

4. よくある失敗と対処

現場でよく見かける失敗パターンを4つ挙げます。1つ目は、除外条件を渡さずに検索軸だけ拡張を依頼してしまい、母集団が的外れに薄くなる、または逆に濃すぎて仕分けに時間がかかるパターンです。対処としては、前章のブリーフの型を先に固定しておくことです。

2つ目は、AIの経歴要約を鵜呑みにして、候補者のキャリアの行間を誤読してしまうパターンです。特に職種転換や複数回の転職を伴うキャリアでは、要約だけでは意欲の温度感が伝わりません。対処としては、要約はあくまで「読む優先順位をつけるための一次情報」として扱い、ショートリスト化の最終判断では原文の経歴書に戻って確認する運用をおすすめします。

3つ目は、検索軸を固定しすぎて、同じようなプロフィールの候補者ばかりが集まってしまうパターンです。AIに軸を出してもらう際、毎回同じテンプレートのプロンプトを使い回すと、出てくる軸も似通ってきます。対処としては、ポジションごとに業界特有の言い回しや、ターゲット企業の呼称の違いを都度追加で渡すことです。少し手間はかかりますが、この一手間が母集団の多様性を保つ鍵だと感じています。

4つ目は、軸を増やしすぎた結果、同一人物が複数の検索軸から重複して抽出され、ロングリストの見た目の人数だけが増えてしまうパターンです。これは特にAI併用で軸が8〜10個に増えたタイミングで起きやすく、重複を名寄せする作業を怠ると「母集団が厚く見えて実は薄い」という誤認につながります。対処としては、ロングリストを作った直後に重複チェックの一手順を必ず挟むことです。

5. 今日からできる実務手順(3ステップ・所要時間つき)

ここまでの内容を、今日から試せる手順に落とし込みます。難しい環境構築は不要で、今使っているAIツールとブリーフの型があれば始められます。

この3ステップの効果は、僕の体感では「読む順番に優先度がつく」ことにあると考えています。全員を同じ熱量で読むのではなく、AIの一次採点を「読む順番のガイド」として使うことで、限られた時間の中でも見落としを減らせる感覚があります。ただしこの優先度はあくまで目安であり、上位に出てこなかった候補者を切り捨てる根拠には使わないようにしています。特にニッチな専門職では、下位に見えた候補者を後から見直したら実は最有力だった、ということも一度や二度ではありませんでした。

6.(結論)検索軸の拡張と一次スクリーニングはAIに、母集団の質と行間の判断は人に

まとめると、僕は母集団形成の検索軸拡張と、ロングリストの一次スクリーニングという「量を扱う工程」はAIにかなり任せられると考えています。一方で、母集団の薄さ・濃さの最終判断、除外条件の匙加減、候補者経歴の行間を読む作業という「質を扱う工程」は、今のところ人が担うべき領域だと感じています。この境界線は今後AIの精度が上がるにつれて動く可能性がありますが、少なくとも現時点での独自ガイドの目安としては、この工程分解が実務の負荷を減らす一番現実的な線引きだと考えています。

皆さんいかがでしたでしょうか。母集団形成やロングリスト作成でAIをどこまで使うか迷っている方は、まず工程を分けて、任せる範囲を小さく試すところから始めてみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. リサーチャー業務はAIに完全に代替されますか

僕は完全代替ではないと考えています。母集団形成での検索軸の拡張やロングリストの一次スクリーニングはAIにかなり任せられますが、母集団の薄さ・濃さの最終判断や候補者経歴の行間を読む作業、除外条件の匙加減は人が担うべき領域だと感じています。工程を分解して任せる範囲を決めるのが実務的です。

Q. 母集団形成でAIに渡すブリーフはどう作ればいいですか

対象ポジションの必須要件・除外条件・検索キーワードの候補軸を最初に文章化してからAIに渡すのが基本です。除外条件を渡さずに検索軸だけ拡張を依頼すると、母集団が濃すぎたり的外れに薄くなったりする失敗が起きやすいため、ブリーフの型を固定しておくことをおすすめします。

Q. ロングリストとショートリストの絞り込みにAIをどこまで使えますか

経歴要約やキーワードマッチ度の一次採点まではAIに任せられる目安ですが、転職意欲の温度感や社風フィットの見立てはCA・RAが読み込む工程として残すべきだと考えています。独自ガイドの目安では1名あたりの一次確認時間が15分から5分程度に短縮する体感があります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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